ILLUSTRATION CONTEST 2024
コラム
ポケモンカードゲーム公認イラストレーター対談
斉藤 コーキ × こみや トモカズ
ポケモンカードゲームのイラストを長く手がけている、斉藤コーキ氏とこみやトモカズ氏の対談をお届けします。経験豊かなお二人の言葉の数々から、ポケモンカードゲームのイラストの世界の多様性や奥深さを、きっと感じ取れるはずです。
斉藤 コーキ
イラストレーター
2002年からポケモンカードゲームのイラストを手がけ、様々なところに生息するポケモンの様子を、活き活きと魅力的に描く。カード以外でも「ポケモンセンター」でのアートワークなど、多岐に渡り活躍している。
こみや トモカズ
イラストレーター
最初期からポケモンカードゲームのイラストを描き続けているほか、ポケモンセンターにて販売されているグッズのアートワークにも携わる。女性誌や絵本系の雑誌でも活躍した実績もある。
はじめに
―――お二人のポケモンカードゲームとの関わりを教えてください。
こみやトモカズ(以下、こみや):高校卒業後、東洋美術学校という専門学校へ行きました。ポケモンカードゲームの仕事を始めたのは1996年で、25歳の時でした。それからフリーランスのイラストレーターをしています。
―――プロのイラストレーターになったきっかけは?
こみや:学生の時に、友だちからフリーマーケットに出店してみない? と誘われて。ハガキにイラストを描いて販売していたら、イラストの仕事をしている女性の方が買いに来て「あなたは学生さんなの? プロなの?」と聞かれて、「プロになれるよ」というようなことを言われたのがきっかけです。その方は小学館の女性誌に絵を描いているプロのイラストレーターで、僕を女性誌に紹介してくれました。
「ビードル」イラストレーター:こみやトモカズ
ポケットモンスターカードゲーム 「拡張シート 第1弾(青版)」収録
―――斉藤さんはいかがでしょうか。
斉藤コーキ(以下、斉藤):コミックマーケットに初めて出品した本がとある出版社の方の目にとまり、お声掛けいただいたのが大きな契機です。元々、絵を描くことを仕事にするのは子供の頃の夢でしたが、本格的に描き始めたのは遅く、絵や芸術とは全く関係のない大学に進んだ後でした。きっかけをいただけたことで、「子供の頃の夢」を思い出して、商業イラストの方向に進むのを意識し始めました。駆け出しだったにも関わらず、恥ずかしながら、実力の伴わない「確証のない自信」を持ってしまい、そのままフリーランスで仕事を続けるようになりました。そして、イベントなどを通じて多くの方々と出会い、そこからお仕事につながり、さらにその成果が新たなお仕事へとつながっていき、今に至る次第です。
ポケモンカードゲームのイラストは2002年から担当するようになりました。ギャロップ、オクタン、ミルタンクを最初に描かせていただきました。このミルタンクのイラストをご評価いただき、ポケモン公式の様々な仕事を担当させていただくようになりました。
「ミルタンク」イラストレーター:斉藤コーキ
ポケモンカードe 拡張パック 第3弾「海からの風」収録
―――グッズ関連で印象深いお仕事はありますか。
斉藤:ポンチョを着たピカチュウのシリーズです。最初「メガリザードンYのポンチョを着たピカチュウ(正面)」のみのデザインをご依頼いただいたのですが、その際に遊び心で「がおー!!」のアクションをつけたラフ画も送ったところ、採用となりました。ひょんなことから商品化につながったので、とても思い出深いシリーズですね。
「ポンチョを着たピカチュウ」イラストレーター:斉藤コーキ
ポケモンカードゲームXY BREAK「スペシャルBOX メガリザードンYのポンチョを着たピカチュウ」収録
こみや氏、斉藤氏の制作スタイルの違い
―――こみやさんは個性的なスタイルのイラストを、斉藤さんは王道のスタイルのイラストを描いていらっしゃる印象があります。ポケモンカードゲームのイラストを描く上で、大切にしていることを教えてください。
こみや:正統派なスタイルのイラストを見ると、僕も正統派なイラストを描きたくなるのですが、自己採点で30点ぐらいしかとれないんですよ(笑)。ポケモンカードゲームが大好きな子供が、大人になって改めて遊んだ時、「こんな変なヤツ、いたよなあ〜!」と苦笑してしまうところが、僕の立ち位置なのだろうと思います。一度は正統派のイラストを描こうと思って取り組んだりもしたのですが、きっと自分には求められていないと思い直し、今の画風を続けています。
―――こみやさんは、自分の作風を「インチキな絵」と評していますね(笑)。
こみや:まさにそれですよ! 本当にそれで良し、と思って描いていますからね。正統派のイラストを描く器用さを持っていないので。水と油に例えれば、僕は油のほうなので(笑)。
斉藤:ポケモンカードゲーム公認イラストレーターとしての僕の役目は、ユーザーの方々に「このポケモンはこんな姿かたちをしているよ」「こういう色をしているよ」と紹介することだと思っています。ポケモンは生き物なので、生息している環境の中で、どういうふうに生きているのか、日々何をして過ごしているのかを描くようにしています。ユーザーの方々がイラストを見た時に、ポケモンの存在感を感じてもらえるようなイラストを描くことがモットーです。
―――ポケモンのいる風景を描く時、どのような工夫をしていますか?
斉藤:空気感や光の加減は重要ですね。ポケモンがそこにいる、ということを表現する重要な要素ですから。
―――空気と光は、描くのがすごく難しいですよね。
斉藤:だから、いつも苦心しています(笑)。
使用している機材や画材
―――どのような機材や画材を使ってイラスト制作をされているのでしょうか?
斉藤:以前は、デジタルとアナログの作業をミックスして仕上げていました。最初期はシャープペンシルでコピー用紙に描いたものを下絵にして、漫画用原稿用紙にカラーインクで線画をしっかりと描き、それをスキャンしてPCに取り込んで、デジタル着色をしていました。着色はPainterを使用していました。
そのうち、デジタル環境の変化のためにPainterからPhotoshopに変化していき、線画もデジタルへ。今ではラフもデジタルで描くようになりました。CLIP STUDIO PAINT(通称、クリスタ)のペンツールの描き心地がとても良かったので、ラフはこれで仕上げています。
こみや:僕はアクリルガッシュをメインにして、鉛筆、色鉛筆、ボールペン、マジックなどで仕上げています。
斉藤:僕はアクリルガッシュが難しくて、デジタルにしました(笑)。
―――こみやさんはアナログ派ですが、画材が多彩ですよね。
こみや:身近にあるものを使い倒しています(笑)。同じことをしていると、僕、飽きちゃうんですよ。そんなこともあって、いろいろな画材を使っています。
―――画材にマジックを使うのは意外だ、と感じました。
こみや:黒の線をデジタルで描くと、やはりキレイですよね。ビビッドだし、穏やかな色合いも出るし。しかし、アナログで描くと黒は沈みがちになります。だから、マジックで描いた強い線を活かしたほうが良いと思って、使っています。
思い入れのあるカードイラスト
―――ご自身で手がけられたカードイラストの中で、気に入っている作品を教えてください。
斉藤:最初に描いたカードイラストが株式会社ポケモンさんでも認められたことが思い出深いですね。そこからポケモンカードゲームのイラストに加えて、ポケモンセンターオリジナル商品のお仕事に恵まれるようになりました。大好きなポケモンのイラストを描ける機会が増えたことに感謝しております。
「ギャロップ」イラストレーター:斉藤コーキ
ポケモンカードe 拡張パック 第3弾「海からの風」収録
「オクタン」イラストレーター:斉藤コーキ
ポケモンカードe 拡張パック 第3弾「海からの風」収録
こみや:レディバです。エゴサーチをした時に海外の掲示板で「レディバが泣いているなんてありえない!」という反応を見て「なるほどなぁ。やっぱり怒るかぁー、怒るよなぁー」と感じた記憶をいまだに思い出すからです。
「レディバ」イラストレーター:こみやトモカズ
ポケモンカード★neo 拡張パック 第4弾「闇、そして光へ…」収録
―――こみやさんは斉藤さんの、斉藤さんはこみやさんのイラストで、お気に入りの作品を教えてください。
こみや:僕は斉藤さんの構図感が好きなんです。すべてのイラストの構図がきれいだと思っています。例を挙げるとすれば、アサナンとマリルリです。
「アサナン」イラストレーター:斉藤コーキ
ポケモンカードゲームADV 第3弾 拡張パック「天空の覇者」 収録
「マリルリ」イラストレーター:斉藤コーキ
ポケモンカードゲームLEGEND 拡張パック「ソウルシルバーコレクション」収録
ポケモンカードゲームLEGEND 「ランダムベーシックパック」収録
―――斉藤さんのイラストの構図のどういうところがいいと思いましたか。
こみや:言葉で表すのは難しいです。抜け方や余白の使い方かな。斉藤さんの作品を見た時に、ひと目で「この人は上手な人だな」と思いました。
斉藤:体が大きかったり長かったりするポケモンを描く時は、悩まされることがたびたびありますが(笑)。それがまた上手くカッチリはまると気持ちいいですね。
こみや:そう! 僕もそこなんです。
斉藤:僕がポケモンカードゲームのイラストを担当する頃には、こみやさんはすでにご活躍されていました。確実に記憶に残るインパクトを持っている絵柄なので、いつ見ても、こみやさんの絵だとわかります。その中でも、デリバードのイラストは本当に好きです。頑張っている動きも印象的だし、小ずるい感じの表情もいいですね(笑)。
「デリバード」イラストレーター:こみやトモカズ
ポケモンカード★neo 拡張パック 第3弾「めざめる伝説」収録
こみや:そういえば、九州にいる親戚の子が、ポケモンカードを集めていたんです。で、「Tomokazu Komiya」というクレジットを見ているうちに、「あれ? この人、親戚にいたんじゃねーの!」と気づいてくれました(笑)。田舎のおばあちゃんに僕のイラストのカードを見せてくれたりして、どうやらあの子は懸命に働いているらしい、とほめられました(笑)。
「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」へのエール
―――お二人は「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」の審査員を務められています。投稿された作品を審査する上で楽しみにしていることがあれば、お聞かせください。
こみや:生まれた時からPCに慣れ親しんでいる方々が、大人になりつつあるので、新しい世代のイラストの最高峰を見られることを楽しみにしています。
斉藤:ありがたいことに、僕がイラストコンテストの審査員を担当させていただくのは二回目です。皆さん本当に素敵な作品を描かれているので、拝見できるのが楽しみです。とはいえ、審査をするのは責任重大で緊張しています。選んだ人の人生を左右しかねないので、気をしっかりと引き締めて取り組まなければいけないことだ、と思っています。長年ポケモンカードゲームのイラストを描いてきた経験を踏まえて、審査に挑みたいです。
―――最後に、このコンテストをきっかけにポケモンカードゲームに興味を持った人や、コンテストの結果を待っている応募者の方に向けてコメントをお願いします。
斉藤:コンテストがきっかけでポケモンカードゲームを知った方は、これからたくさんのカードに出会うことになるかと思います。ポケモンカードゲームは、いろいろな楽しみ方ができますよね。対戦をしたり、イラストを鑑賞したり、気に入ったイラストレーターのカードをコレクションしたり、友達と交換したり。そのように楽しんでもらうためには、まずユーザーの方々に手に取っていただくことが第一です。皆さんにニッコリしていただけるようなカードが、お手元に届くように願っています。
こみや:結果を待っている人は、緊張していると思います。その緊張感を十分に味わってほしいですね。人によっては、トラウマになる人もいるかもしれません。もし今回がダメでも、きっと次はあると思いますので、頑張っていただきたいです。
構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子