ILLUSTRATION CONTEST 2024
コラム
ポケモンカードゲームのディレクターが語る
イラスト制作のポイント
ポケモンカードゲームのアート全体の企画とイラストをディレクションする、株式会社クリーチャーズの長屋悟と齊藤はるに話を聞くと共に、海外向けの商品を監修するThe Pokémon Company Internationalのケビン ラリにメール形式のインタビューを行い、三者の視点から「ポケモンカードゲームのイラスト制作のポイント」について語ってもらいました。
長屋 悟
株式会社クリーチャーズ
アートディレクター
株式会社クリーチャーズのアートディレクターとして、アートディレクションを担当している。ポケモンカードにかかわるデザイン物のアートディレクション、監修、海外調整などを行っている。
齊藤 はる
株式会社クリーチャーズ
イラストディレクター
ポケモンカードゲームのイラストディレクターとして、全世界で発売されるカードイラストのクオリティ管理・企画や、イラストに関わる国内企画案件のディレクションを担当している。
また、シリーズを通したイラストのコンセプトを固めるという重要な役割も担っている。企画段階のコンセプトイラスト、イメージアートなども自ら制作する。
ケビン ラリ
The Pokémon Company International
デザインディレクター
デザインディレクターとして、アジア地域以外において発売されるポケモンカードゲームのパッケージデザインとデザインのローカリゼーション、カード制作、マーケティング用素材管理に跨り幅広い範囲で制作を監督している。
The Pokémon Company Internationalとは
株式会社ポケモンの海外子会社である The Pokémon Company International は、アジア地域以外においてブランド管理、ライセンス供与、マーケティング、ポケモンカードゲーム、テレビアニメシリーズ、その他商品やサービス、および管轄地域におけるポケモンの公式ウェブサイトを担当している。
―――「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト」を開催する目的を教えてください。
齊藤はる(以下、齊藤):ポケモンカードゲームのアートを盛り上げるために、さまざまな才能を持った、新しいクリエイターと出会える場として、定期的に開催しています。
―――今回の「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2024」では、参加対象国をさらに増やしました。意図や期待感を教えてください。
齊藤:「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト」は、開催するたびに対象国を拡大しています。国境や、文化の枠を超えて、より多くの方が参加できるコンテストになるように拡張している最中です。今回は、日本、米国、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドが対象国です。多種多様な文化を背景に持つアートと出会えることを期待しています。
長屋悟(以下、長屋):ポケモンカードゲームは、制作のほとんどをクリーチャーズが行っていますが、カードを構成する様々なクリエイティブの要素の中で、イラストは外部のイラストレーターの方々のお力を借りて制作しています。これまでに見たことのない表現をしてくださる才能をさらに発掘していきたい、そうしてポケモンカードゲームをより面白いコンテンツに発展させたい、という期待感を抱いています。
ケビンラリ(以下、ケビン):「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト」が様々な国々に拡大し、皆さんの才能と想像力あふれるイラストを見ることをとても楽しみにしています。ポケモンは、文化や世代を超えて世界中で愛されています。ポケモンファンがイラストを通じてポケモンに対する愛情を表現しているのを見るのは本当に嬉しいことです。
―――ポケモンカードゲームというトレーディングカードゲームにとって、イラストが担っている役割や魅力を改めて教えてください。
長屋:トレーディングカードゲームの魅力は、カードをコレクションして楽しむこと、そして対戦をしてゲームを楽しむことの両面があります。イラストは、コレクションと対戦の両方に深く関わっています。コレクションには、イラストそのものを楽しんでいただいたり、好きなイラストレーターのカードを集めていただいたりなど、奥行きのある楽しみ方が存在します。対戦の面白さは様々ですが、魅力がよくわかる一例があります。ポケモンが使うワザの名前とイラストの内容が連動していると、バトルへの没入度が深くなります。いわゆる“ごっこ遊び”の面白さですね。このようにイラストは、ポケモンカードゲームにとって、非常に重要な役割を担っています。
ケビン:イラストはポケモンカードゲームにとって、とても大切な役割があります。カードイラストは、プレイヤーが拡張パックを開いたときに最初に目に留まるものです。イラストは、ポケモンたちのユニークな特徴を描写するだけでなく、各カードの独特なアートスタイルや技法を通して物語を語ります。
―――ポケモンカードゲームのイラストを描く上でのルールを教えてください。また、イラストレーターに与えられる自由度についてもお聞かせください。
齊藤:基本となるのは、ポケモンを主役に描くことです。例えば「ピカチュウ」や「リザードンex」のカードなら、まずはそのポケモンのカードであることがしっかり伝わるように描くことが大切です。次にそのポケモンがどういう生き物なのかをユーザーに伝えます。どんな場所に生息していて、どんな振る舞いをしているのか。つまり、ポケモンたちの世界観を正しく伝えることが大前提です。それを達成した上で、イラストレーターの方々には、各々の個性を発揮していただいて、その作家さんにしか描けないイラストを生み出していただきたいです。
―――イラストレーターとのやりとりを通じて感じる、ポケモンカードゲームのイラスト制作の面白さをお聞かせください。
齊藤:ポケモンカードゲームのイラストは、現在250名ものイラストレーターの皆さんと制作しています。作家さんから届くイラストの1枚1枚に皆さん独自の個性が表現されていたり、「こう来たのか!」という新鮮な驚きを感じたりできるのが、最も楽しい瞬間だ、と感じています。
―――イラストレーターの皆さんはどんな方が多いのでしょうか。
長屋:皆さん真面目で、誠実な方が多いように感じます。「ポケモン」というブランドに対する理解と、その世界観の中で、クリエイティブを楽しんでいただける作家さんが多いです。そして、作品を重ねるごとに、クオリティを確実に上げてくださっている印象です。
―――今回のテーマを「ポケモンの魅力的な瞬間」に設定した理由を教えてください。
齊藤:テーマの設定は、とても大変でした。同じポケモンでも、人によって魅力的に感じる瞬間は多種多様です。ポケモンたちがそれぞれ持っている唯一無二の個性を見つけて、応募者の皆さん一人ひとりに自由に表現していただきたい、と思っています。
長屋:前回の「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト 2022」のテーマが、「ポケモンの日常(生活)」でした。日常という言葉からイメージしやすかったのか、眠っているポケモンのイラストも多かったので、今回は活動的なイラストも多く見たい、という想いがあって、テーマを「ポケモンの魅力的な瞬間」に決定しました。
―――「ポケモンの魅力的な瞬間」というテーマから、どんなイラストが誕生することを願っているのかをお聞かせください。
齊藤:「ポケモンの魅力」とひと口に言っても、ポケモンそれぞれで異なります。応募者の皆さんが、そのポケモンの特徴を十分に理解した上で、その魅力を引き出し、ご自身の個性も表現していただければ、とてもうれしいです。ポケモンも、ポケモンを描く皆さんも輝いている状態が理想的だと思っています。
―――「カードイラスト」「exカードイラスト」の2種類を応募の対象にした理由をお聞かせください。
長屋:通常のカードイラストは、これまでの「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト」でも題材として出させていただきました。バトルをしている姿もあれば、日常を過ごしている姿もあり、ポケモンの様々な生態を描けるのが特徴です。exカードイラストは、バトルに特化した強いカードという位置付けなので、バトルをする姿のイラストになっています。通常のカードイラストとの違いは、カードフレームからポケモンを飛び出させられることです。このルールを活用し、とにかくバトルにふさわしい、カッコいいポケモンを描いていただきたいです。
実際に拡張パックなどの商品に収録されている、日本語版の「ポケモンex」のカード。
―――課題となる10種類のポケモンはそれぞれどのような観点や理由からセレクトしているのか、教えてください。
齊藤:今回の10匹は、どちらの枠でも魅力的なイラストに出会えることを願って、ポケモンを選びました。ポケモンの日常的な生態を描くことも、バトルをしているカッコいい姿を描くこともできます。二足歩行と四足歩行の違い、毛のふさふさ感や皮膚の硬質感など、ポケモンの形状や質感がそれぞれ異なっていることも重視しています。また、海外で人気のポケモンを伺って、選定に入れさせていただいています。
長屋:中には「このポケモンをポケモンexで描くと、どうなるのかな?」と思えるポケモンもいます。それがどのポケモンかは言いませんが(笑)。応募作品の発想を広くすることが目的です。
―――通常の「カードイラスト」には、どのような作品を待望しているのでしょうか。
長屋:まず、イラストのサイズが明確に決まっています。その制約の中で、ポケモンが何をしているのかがしっかり伝わるように描いてほしいです。見た人が「……これは何をしているところだろう?」と迷うことのないように気をつけていただきたいです。
齊藤:ポケモンの生態がリアルに感じられると、グッと来ますよね。ただし、注意点もあります。イラストに込めたストーリーが濃くなりすぎたり、説明が多くなりすぎたりすると、ユーザーはイラストに目がいってしまって、対戦の集中を邪魔してしまう懸念が出てしまいます。遊びやすさを阻害してしまわないように、シンプルで直感に訴えかけるイラストを描くことがコツの一つなのかもしれません。
ケビン:ポケモンのカードイラストは、ピクニックしている様子や昼寝をしている瞬間などが描かれ、他にも想像力を刺激するものは多岐にわたります。私が最も楽しみにしているのは、各イラストレーターがポケモンの日常をどのように解釈し、それをどのようにイラストに描いていくかを見ることです。
―――「exカードイラスト」には、どのような作品を期待しているのでしょうか。
齊藤:exカードイラストと通常のカードイラストが明確に違うのは、やはりフレームです。通常のイラストでは、背景の中にいるポケモンを描きます。ポケモンexのイラストはバトルの臨場感や迫力を主なテーマにしています。ポケモンの顔もガッツリとユーザーに寄っているので、目の力強さや、体の質感、臨場感の描き込みに重きを置いています。それぞれイラストの趣向がまったく異なるので、応募される皆さんのポテンシャルと合っている表現を選択していただけたら、と思っています。
長屋:exカードイラストは、ポケモンとエフェクトと背景を描かなくてはいけないので、背景が見えなくなりがちです。ポケモンが枠から飛び出し、エフェクトが効果的に表現され、なおかつ背景もきちんと描いていただけたら、うれしく思います。
ケビン:ポケモンexのカードは、迫力満点です。パワフルな構図が印象に残る息を吞むようなイラストが多いです。ポケモンexのカードが通常のカードと一線を画すのは、そのダイナミックさだと思います。イラスト上でのダイナミックな表現だけではなく、券面加工においても特別感のあるカードです。選んだポケモンの魅力を最大限に表現できるよう、それぞれのポケモンらしいダイナミックさを探求してほしいと思います。
―――「3DCGのポケモン」も募集対象になっていますが、その理由を教えてください。
齊藤:拡張パックなどのパッケージに描かれている3DCGのイラストのように、ユーザーの目に最初に届くビジュアルは、ポケモンの最も正しい姿を届けたい、と思っています。そのためにも3Dのイラストに力を入れています。3Dでポケモンのイラストを描きたいという方がいらっしゃったら、ぜひ応募頂ければと思っています。
商品のパッケージとして使われている、3DCGのポケモンのイラスト。
―――ファンから寄せられた、ポケモンカードゲームに対する反響のなかで、印象に残っているものがあれば教えてください。
齊藤:抽象的な話になりますが、私たちが意図していない感想を抱いてくださったり、独特の読み取り方をしてくださったりすると、実はつくり手として、とてもうれしいものなのです。また、あまり有名ではない、例えばレアリティがコモンのカードなどをスマホの透明ケースの中に入れてくださる方々を街中や電車の中で見かけたときに、とてもグッと来ます。
長屋:昔の話になるのですが、幼い子たちがポケモンカードゲームのイラストを描いて送ってきてくれたことがありました。ポケモンたちが戦っている難しい構図にチャレンジしてくださっていて、自分たちがポケモンカードゲームのイラストで表現した意図が子どもたちにも伝わっているのだと感じられたときは、感激しました。
※現在は、イラストやファンレターの持ち込みは一切受け付けておりません。
ケビン:子どもたちが拡張パックを開けるのを見るのが大好きです。私の甥は、キラカードや好きなポケモンのカードを見つけると、興奮して家の中を走り回ります。私の息子もその興奮に巻き込まれて、いっしょに盛り上がるのですが、そんな姿を目にすると心が温まり、ポケモンカードゲームがもたらしてくれる楽しさを実感し、やりがいを感じます。
―――最後に「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト2024」への応募を考えている人々に向けて、メッセージをお願いします。
齊藤:「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト」への応募数も増え、勇気をいただいております。皆さんの作品を拝見していちばん思うことは、自分らしい絵を描いてほしい、ということです。一般的に、「ポケモンカードらしいイラストを描かないと」と力んでしまうかもしれませんが、そんな必要はぜんぜんありません。「自分だからこそ、この絵になりました!」と胸を張って言えるイラストを描いていただきたい、と強く願っています。
長屋:過去の「Pokémon Trading Card Game イラストレーションコンテスト」に応募してくれた皆さんは、今回はポケモンexのイラストにチャレンジしてもらえたら、自分では気づかなかった才能を発見するかもしれませんね。気軽にチャレンジしてください。
ケビン:楽しんで、自分らしく、想像力を自由に働かせてください。絵を描いたり、詩を書いたり、料理をしたり、楽器を演奏したりして、創造的な活動に従事することで、感情を表現するきっかけに触れることができます。このコンテストは、アートとポケモンの両方に対する情熱や創造性を表現するよい機会です。アートワークを通して、あなたならではのメッセージや世界観が伝わるようなイラストが出来上がるのを楽しみにしています。
構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子